潜在株式調整後1株当たり当期純利益とは、希薄化効果を考慮した1株当たり当期純利益のことです。この記事では潜在株式調整後1株当たり当期純利益について解説します。なお、1株当たり当期純利益については1株当たり当期純利益・1株当たり純資産とはをご覧ください。
希薄化効果とは
株式投資における希薄化効果とは、会社が発行する株式数が増加することにより、1株当たり当期純利益が減少することです。
例えば、毎期100万円の当期純利益を計上する会社(株式数10株)があったとします。この会社の1株当たり当期純利益は10万円(100万円÷10株)ですが、新株発行により株式数が10株増えたとすると、この会社の1株当たり当期純利益は5万円(100万年÷20株)に減少します。
このように、会社が発行する株式数が増加すると1株当たりの分け前が少なく(薄く)なってしまいます。このことを「希薄化」と言います。
潜在株式とは
潜在株式とは、将来的にその会社の株式になる可能性がある権利・証券・契約のことです。具体的な例としては、新株予約権(ストックオプションを含む)や新株予約権付社債などがあります。新株予約権や新株予約権付社債などは将来的にその会社の株式になる可能性があるため希薄化効果を有することがあります。
潜在株式調整後1株当たり当期純利益とは
潜在株式調整後1株当たり当期純利益とは、潜在株式に係る権利の行使を仮定することにより算定した1株当たり当期純利益のことです。
1株当たり当期純利益=(当期純利益+調整額)÷(株式数+株式増加数)
調整額とは、潜在株式が行使された場合、増加・減少する費用のことです。例えば、新株予約権付社債が行使されると、それ以降の利息の支払いが不要になるため、当期純利益にプラスの影響があります。なお、ストックオプションの場合は調整額はありません。
設例で見てみます。
(例)A社の当期純利益は1,500万円、株式数は100株である。また、ストックオプションが5個あり、株式増加数は50株であった。
当期純利益1,500万円÷株式数100株=1株当たり当期純利益15万円
当期純利益1,500万円÷(株式数100株+株式増加数50株)=潜在株式調整後1株当たり当期純利益10万円
このケースでは、ストックオプションによる希薄化効果があることになります。
なお、1株当たり情報は、実務では非常に複雑な計算が必要になることが通常ですが、株式投資をする上では詳細な計算過程まで知る必要はありません。基本的な考え方だけ理解しておきましょう。
潜在株式調整後1株当たり当期純利益が開示されないケース
決算短信・有価証券報告書で潜在株式調整後1株当たり当期純利益が開示されていない(「ー」になっている)ケースがあります。この理由は以下のいずれかです。
- 潜在株式がない場合
- 潜在株式が(調整額により)希薄化効果を有さない場合
- 当期純損失の場合
これらの場合、潜在株式調整後1株当たり当期純利益が開示されないため、潜在株式調整後1株当たり当期純利益が「ー」で表示されます。
希薄化による影響を予測
潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、希薄化によるリスクを考慮した1株当たり当期純利益です。
株式投資において希薄化が起きると株価が下落するため、株主にとっては大きなリスクとなります。一般的にPERは希薄化を考慮しない1株当たり当期純利益で計算されているため、大規模な希薄化が起こる可能性がある場合、潜在株式調整後1株当たり当期純利益によりその影響を事前に知ることができるのです。