四半期報告書の廃止について

岸田内閣の主要政策の一つに「新しい資本主義」の実現があります。現時点でまだ決定事項ではありませんが、その中で四半期報告書の廃止が検討されています。今回は四半期報告書の廃止について考えたいと思います。

目次

背景

まずなぜ四半期報告書の廃止が検討されているのが背景について説明します。

新しい資本主義の実現という政策の背景にはこれまでの経済は「市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず、格差や貧困が拡大した」という見方があります。これは金融市場も例外ではありません。

株式市場においても過去から「四半期開示により経営者も投資家も短期的な業績にとらわれている」と指摘する声があり、ここ数年、中長期的な経営や投資を重視する観点から四半期開示を廃止する議論が世界的に活発になってきました。

日本では四半期報告書の廃止について「企業の負担軽減のため」という説明がよくされていますが、それは後から付け加えられた理由の一つです。

日本と欧米の開示制度について

現在の日本の四半期開示についておさらいすると、金融商品取引法による「四半期報告書」と証券取引所のルールである有価証券上場規程による「四半期決算短信」の2つの開示があります。四半期報告書と四半期決算短信による開示を総称して四半期開示と言います。

海外の四半期開示を見てみると、欧州では開示義務が廃止され任意となった一方、米国では義務とされています。トランプ元大統領が在任中に10-Q(米国版四半報)の廃止の可能性について発言したことがニュースになったこともあります。

四半期開示は廃止される?

2022年12月に金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループから報告が公表されました。

これによると、四半期報告書を廃止し半期報告書とすること、四半期決算短信を義務とするが、任意化についても継続的に検討することとされています(半期報告書とは半期に開示される報告書のことです)。

簡単に言うと金融商品取引法による開示は3か月ごとの開示から6か月ごとの開示になるが、有価証券上場規程による四半期決算短信の開示は続くということです。つまり、今回の見直し案の内容では市場に与える影響はほぼないと言えます。

現状見直し案
金融商品取引法四半期報告書半期報告書
有価証券上場規程四半期決算短信四半期決算短信(当面は一律義務付け。任意化について継続的に検討)


仮に四半期報告書の廃止後、四半期決算短信が任意化された場合でも、ほとんどの会社が任意開示を続けると考えられます。
他社が開示する中で開示をやめると株主数が減少したり、株式の流動性が低下することが考えられるためです。

つまり、「四半期報告書」は廃止されるものの「四半期開示」は継続するというのが答えになりそうです。

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